公開日: 2020年4月13日 - 最終更新日: 2020年4月13日

伝来、発展、再び世界へ<1/2>

JAPAN BONSAI 編集部
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鉢という空間に限りない世界を感じることができる盆栽は、小宇宙とも呼ばれている。茶道もまた四畳半という限られた空間に、千利休は宇宙を表現した。侘び寂びの世界、日本庭園、枯山水など…。それらの根底には禅的な思想や世界観が流れている。「盆栽」もまた同様ではないだろうか? 「禅」は古く中国から伝来し、日本で洗練・昇華し「ZEN」として世界に広まった。「盆栽」もまた中国から伝来、日本で発展し、世界の「BONSAI」となった。日本で体系化され、後に世界から評価を受けZEN、そしてBONSAIと横文字になり、日本に逆輸入されている現状が良く似ていることも奇遇だ。多くの共通項を持つ「盆栽と禅」という似て非なるふたつをテーマとして、禅宗(曹洞宗)の住職でもあり、一般社団法人日本盆栽協会の理事長も務められている青蔭文雄氏にお話しをうかがった。

前編:常識を覆す

喫茶去

“花のお寺”として知られる常泉寺は、神奈川県大和市にある。参道の同祖神に迎えられ、山門をくぐって驚いた! 境内は珍しい三椏(みつまた)の木をはじめ、所狭しと手入れされた草木が植えられている。その間には多くの導祖神と河童!? どうやらこのお寺の住職は、並々ならぬこだわりと行動力のある方に違いない。そう思いながら歩を進める。

寺務所に近づくと、今度は盆栽が飾られている。愛情たっぷりに世話されているであろう大小様々の盆栽は皆、生き生きと胸を張っているように感じられた。受付で取材の旨を伝えると、中へ案内された。照顧脚下の木札を横目に、玄関で靴を揃える。こだわりは境内だけではなかった。一般的なお寺のイメージとあまりにも違い、まるで美術館のような内装にすっかり心を奪われてしまったのだ。

「まずは建築について聞いてみたい」
インタビューの趣旨を忘れ、通された間でそんな衝動を抑えながら住職を待った。挨拶もそこそこに「堂内を案内してください」と問うと、住職は微笑みながら優しく「まあお茶でも」と口にされた。この瞬間「喫茶去(きっさこ)」という言葉が脳裏に浮かび、同時にパシッと警策*で打たれたような感覚を覚えた。お茶に逢ったらお茶を飲む。その一事に専念する。お茶を飲むときはお茶だけに自分を向ける。差し出されたお茶を味わい、お茶と一体になる。

「今、此処でお茶を召し上がれ」
お茶を飲む行為は日常のごくあり触れた行為であるが、禅そのもの。お茶を飲むこと、ご飯を食べること、挨拶をすること、その日常の行為ひとつひとつを丁寧に行うことこそ、禅の教えの実践なのだ。我々は同時に色々なことをして、脳ミソは色々と考えてしまう。そう、つい「ながら族」になりがちなのだ。お茶を飲むときは飲む事だけに徹する。「喫茶去(お茶を召し上がれ)」という優しい言葉だが、分別・偏見・差別・妄想などを捨て切らないと、真に実践することは難しいもの。心のとらわれを捨て、「いま」「ここ」に丁寧に向き合い、単純に目の前のことだけに集中する。一所懸命、日日是好日、歩歩是道場なのだ。
※警策:坐禅の際に僧が気の緩みや眠気等を戒めるために肩や背を打つための木の棒。

オンリー1

常泉寺の創建は1588年頃と伝わっており、青蔭氏は24代目の住職となる。いまでこそ「かながわの花の名所百選」に指定され、“常泉寺=花のお寺”というイメージが定着したが、昔から花でいっぱいだったのだろうか?

早くに父を亡くしたため、24歳のときに常泉寺の住職となりました。最初の5、6年はとにかく忙しく、あまり考える余裕がなかったのですが、30歳くらいになると「お寺という場所を変えていきたい」と思い始めたんですね。法事や葬式は重要な儀式ですが、もっと広く、多くの方にお越しいただきたい。お寺というしがらみから解き放たれて、もっと自由な発想のお寺にしたい。ナンバー1は無理かもしれませんが、オンリー1、個性のあるお寺にはなれるんじゃないか? そんな想いから、また母が生け花を教えていたこともあり、いろんな花を植え始めたんですね。でも、紫陽花を植えても、萩を植えても、「どこそこのお寺が有名だ」とことごとく言われてしまい…。京都にも、奈良にも、鎌倉にも、どこのお寺にも植えられていない花はないのか? 当時はインターネットなんてありませんから、とにかく本を買って調べました。そんなときに出会ったのが、三椏(みつまた)なのです。

三椏はジンチョウゲ科の花で、中国中南部・ヒマラヤ地方が原産地とされている。春先、葉が芽吹く前の枝先に開花。枝が3つに分かれていることが、名前の由来だ。また、三椏の皮は一万円札をはじめとする紙幣の原料としても使われている。

「これだ!」と思ったのですが、なかなか三椏を手に入れることができなくて…。ある方から「四国にある」と教えられ、現地まで飛んでいきましたよ。それからですね、花のお寺としてスタートしたのは。

<後編に続く>

Profile
青蔭 文雄
神奈川県大和市、常泉寺住職。大和市の教育委員、委員長、社会教育委員、人権員などを歴任。大和警察署協議会会長も務めた。約20年前より盆栽をはじめ、一般社団法人日本盆栽協会の理事長も務めている。

花のお寺 常泉寺

神奈川県大和市福田2176
http://www.jousenji.com/
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