いまでは金属産業都市として大きな発展を遂げた新潟県三条市。その歴史は古く、寛永2年(1625)から3年間、代官所奉行として三条に在城した大谷清兵衛が、河川の氾濫に苦しむ農民を救済するため、江戸から釘鍛冶職人を招き、農家の副業として和釘の製造法を指導・奨励したのが始まりとされている。そんな三条市で、親子二代にわたり金物道具の卸業を営んでいるのが“株式会社喜久和”だ。
盆栽道具に、喜久和あり
金物道具と関わって60年の老舗問屋
創業60年、会社設立40年となる株式会社喜久和は、いまでこそ盆栽道具の卸業として全国、いや世界に名を馳せているが、創業時から盆栽道具を扱っていたのだろうか? 代表取締役の石黒隆夫氏に話を聞くと…。
親父は最初、大工道具からスタートしたと聞いています。関東大震災の後、建築ブームが巻き起こって、大工道具の需要が一気に高まったんですね。しかし、時が経つと電動化の波が押し寄せ、昔ながらの大工道具は廃れていきました。
次に目を付けたのが園芸の道具です。昭和40年代に、さつきがブームだったのをご存じですか? しばらくは園芸道具でしのぎを削れたんですが、それもオイルショックで下火に…。その後、バブルがはじけるとガーデニングがブームになり、また一時、良くなったんですが、いろんな会社が参入し、さらに輸入品も出回って、引っかき回されてダメになっちゃいましたね。
お話をうかがうと波瀾万丈といった感じだが、喜久和は地元の商材にこだわり、時代時代のニーズに合わせて商売を続けていったのだ。そして現在、主力となっているのが盆栽道具である。
やはり盆栽道具は新潟、三条ですよ。盆栽道具の約80%は、我々の地元で作られています。私の会社は問屋として、他の産地にも卸に行きます。堺や関も刃物が有名ですが、我々はOEMとして関のメーカーに盆栽道具を卸したりしてますからね。
喜久和が扱う盆栽道具はつとに有名で、いまでは日本国内のみならず、海外からの問い合わせも多いと聞く。
以前は商社を通して欧米に販売していました。インターネットが普及したいまでは直接、中国に送ったりしてますね。
ワールドワイドな商いを展開している喜久和だが、どのような盆栽道具の売れ行きが好調なのだろうか?
盆栽セットがよく出ますね。例えば、「足長盆栽鋏」「又枝切」「針金切」「手打八床」「ピンセット」の5点セットは定番です。値段の高いセットのほうが出ます。やはりいい物が欲しい、いい物で手入れしたいという欲求が強いんですよ。
値段の違い、その差ですか? いまでは作れる職人がめっきりと減ってしまいましたが、手作りの道具は値段こそ張るものの、やはり素晴らしいですね。まずハサミは包丁と違い、合わせで使いますから、右と左の刃の硬さが違うとトラブルになります。左右、同じ硬さが必須なんですね。もちろん、合い刃ですから、すり合わせも難しい。でも職人が丹精込めて作った盆栽道具は、最初の切れ味こそ大量生産品と大きく変わりませんが、切れ味が驚くほど持続します。さらに研ぎやすいですね。価格差は、物によっては5倍程度違います。
それにしても陳列棚を見ると、もの凄い数の盆栽道具が並んでいる。盆栽道具の種類は以前よりも増えているのであろうか? また、時代と共に人気が浮き沈みするような道具はあるのだろうか?
道具の種類は、昔のほうが多かったですね。淘汰されて少なくなったのですが、我々が復活させたりする道具もあります。
いまは真柏盆栽が人気ですよね。ジン・シャリを表現するため、時には樹皮を削ったりする道具として、彫刻刀もよく出ますよ
喜久和は卸問屋だが、刃物メーカーは在庫をしないため、完成した道具は基本的に全部買い取り、自ら在庫しているという。また、現在は小売りも行っているため、愛好家が直接購入することも可能だ。
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