小品界で定評のある漆畑信市さんを父に、盆栽界の巨匠、木村正彦さんを師として仰ぐ漆畑大雅さんは、1メートルを超える大品から3センチ以下の豆盆栽までを手掛ける若きオールラウンダー。父、弟子、時には外国からの研修生も集う苔聖園(たいしょうえん)でお話をうかがった。
奢らずがモットーのオールラウンダー、漆畑大雅
伝統を重んじる心、新しいものも取り入れる感性
3人兄弟の末っ子として生まれた漆畑大雅さんは、盆栽界に入って約20年。実はちょっと変わった経歴の持ち主だ。
中学を卒業して高校に行こうかな…と思っていたら、親父に「中国に行かないか?」って言われて(笑)。親父は中国と取引があったんで、学校を紹介してもらえたんですね。…で、勉強できなかったし、中国で一からやり直すのもいいかな…と思って、15歳で中国に行ったんです。
向こうでは大学の寮で暮らしていたんですが、大学の夏休みって長いじゃないですか。そこで東南アジアに旅行に行ったんですね。すると中国語だけでは通じない。どこへ行って英語が主流で、こりゃあ英語が喋れなきゃダメだな…と思ったんですね。そこでカナダへ飛んだんです。
さらっと話す大雅さんだが、15歳で親元を離れ、海外でひとり暮らしを経験したとは、ちょっと驚きだ。そして中国からカナダへと渡り、2年ほど経った頃、大雅さんは将来について悩んでいた。このままカナダに居て英語を極め、通訳を目指すべきか。すると…。
親父から「行くところは決まってるぞ」と。まさか盆栽界に入るとは思っていなかったのですが、絶対に通訳になりたかったわけでもないし、父が築いたものを無にするのもなぁ…と。親方は木村さんだったんですけど、世界に名だたる方ですし、一番の人から学べる機会なんて、他の業界でもそうそうないじゃないですか。だから腹をくくりました。
木村さんの元で5年間修行し、1年間のお礼奉公を加え6年経った26歳の時、大雅さんは苔聖園に戻った。仕事場では親子の作業が分業されているという。
親父は外国から来た研修生に指導しています。海外で盆栽を仕事にしているプロから、趣味の方までさまざまですね。期間は1週間から3ヶ月ぐらい。いままで100人以上は受け入れてますね。
私は大品だけではなく、創作、改作、さらには豆盆栽まで手掛けています。盆栽に小も中も大も隔たりはないと思っていますので、なんでもやりますよ。たぶん、私みたいにオールラウンドにやってる人は、数人しかいないんじゃないでしょうか。木村さんを親方に持ち、親父がいたからこそ、なせる技でしょうね。本当に恵まれた人生を歩んでいると思います。
そんな苔聖園を訪れた方は、その店構えに驚くであろう。多くの盆栽園は塀で囲まれ、ちょっと敷居が高いイメージだが、苔聖園は真逆。入口付近の塀がシースルーのクリアで、陳列された盆栽が出迎えてくれるのだ。これだけオープンな盆栽園は、日本広しと言えどもそうそうない。実際、リニューアルしてから足を運んでくれるお客様が増えたという。
愛好家の数を増やし、裾野を広げなければ、盆栽界の未来はないと語る大雅さん。伝統を守りつつ、オープンな感覚を取り入れる感性は、10代の頃に過ごした海外で育まれたのかもしれない。
苔聖園への問い合わせ先
静岡県静岡市駿河区池田1872-2
TEL 054-262-6411
FAX054-262-7170